『発見と模型』の発見

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ちょうど、文フリの少し前からクリスチさんとネット上で模型について感想だったり思いついたアレコレをやりとりしていたときに、彼が文フリにこれまでの模型作りについて同人誌を出すということを知った。

「欲しい。しかし、北海道のその中でもさらに田舎から文フリに行くのはガンダーラよりもはるかに遠い。」

SNS上の会話でその余香を楽しむのがせいぜいなんだと思いきや、クリスチさんのご厚意でこの本『発見と模型』を思いがけず手にすることができた。

 

この本はタイトルが示すように、著者自身の模型製作を通じて得た発見がその時の心の動きとともに編まれている。模型製作を始めてみようと思い立ったきっかけから、購入、切り取り、貼り合わせ、塗装などの製作順に縦糸のように綴られ、道具や「パーツ落とし」といったトラブルなどトピック的な話題が横糸となっている。

 

本書を手にとって、まずは気楽に読んでみようなんて思ったのだけど、これが大きな間違いだった。

製作工程の1つごとに語られる内容はまさに模型製作。読む模型。そのため、一文読むごとにその作業を追体験する感覚に襲われるため、結構なカロリー消費となる。実は1回目の読後は自分で模型作る気分にならなかった。疑似体験で満足しちゃったので。そして、語られる「発見」や心の動きが1つひとつ納得だったり、「おー、そうくるか」というものだったり。

 

さて、本書で特に紹介しておきたいのは、「思考型趣味」模型という節。そこでは「作った人が何かを考えて作っていることの方に気持ちが向く。むしろ、本質はそこなのではないかとすら。」と著者にとっての模型を作る独自の視角が提示されている。この一文を読んだとき「あぁ、こういう楽しさを適切に言語化してくれる人がいるのだなぁ」としみじみ嬉しくなった。もちろん、模型趣味なんていうものはきわめて個人的な趣味だし、同じ発想をする人がいようといまいと関係ないのだけど、それでもポツポツと一人でやっていた楽しみが多少は他の人にとっても面白いものだと知れたのはプリミティブに嬉しいものだったりする。

 

思考型趣味とする模型製作では、自分が見たい、見せたい模型の意図があり、その背後には膨大な文脈が横たわっている。そういうことをアレコレ考えながら完成する模型を眼前に置いたとき、それを目にした人の心には、3つの驚きが生まれる。直感的な驚き、文脈がもたらす驚き、そして背後の文脈を完全に理解した上で製作者自身さえも意図しなかった良さと意味を「発見」する驚き。この3つ目の発見は、普段何気なく通り歩く街路樹の樹の名前を知るように、一度発見によって気づくと、その街路樹はもうただの街路樹には見えないのと同じ種類の発見だ。

 

この本によって模型作りに惹かれる楽しさを言語化され、僕自身が自分を「発見」し、模型趣味を持つ人たちにとっては新たな模型作りの楽しさを見せてくれる人を「発見」したのではないだろうか。僕たちは『発見と模型』を発見したのである。