割り切れるようで割り切れない話。

f:id:Ash1974:20220302153313j:image

Air Model Letter(AML)というプラモの完成についてあれこれ綴った記録を作って、ネットプリントでも印刷できるように公開する遊びを細々と飽きもせずやっているわけですが、作った模型をすべてAMLにしているわけではなかったりします。上に掲載した写真の飛行機もその一つ。第2次世界大戦期にイタリアの空を飛んでいた飛行機、Reggiane RE2002 Arieteです。イタリアのスーパーモデルというメーカーのキットで、作りやすく、ほどよい細密さで非常に楽しい製作体験でした。塗装も比較的上手くいって、いつもなら皆さんに見せびらかしたいと思うはずなのですが、困ったのはラウンデルのマークです。

イタリア旧軍機に使われているラウンデルには何パターンかあるのですが、このラウンデルは「ファスケス」といって、ルーツはローマ帝国の執政官や皇帝の行列の目印として斧を木で束ねたものを図案化しています。この権威の象徴をムッソリーニ率いるファシスト党は自らのシンボルに利用しちゃったわけです。

さて、そういう歴史的背景を背負ったプラモデルを作ってAMLに仕立てようというとき、果たして「楽しかった!カッコいい!」といういつもの調子でまとめて世に出していいものだろうか?困りました。結局、ファスケスはファシスト党だけの図像ではないことを理由にデカールを貼ったものの、AMLにまとめることはできませんでした。

戦争の悲惨な負の記憶は、何らかのシンボルと結びつき、シンボルそれ自体にはなかった意味も纏うようになっていきます。ドイツの鉤十字もそうです。

f:id:Ash1974:20220302160944j:image

これはHellerのキットですが、垂直尾翼に注目すると鉤十字が黒塗りになっています。このように、歴史の記憶に結びついた図像を含んだプラモの製作は途端にややこしいものとなってしまいます。「歴史は歴史、プラモはただの玩具」「飛行機のかっこよさと戦争は別」確かにそうなのかもしれません。分けて考えられないのは理性的ではないのかもしれません。しかし、僕自身がプラモ製作で楽しんでいる「考証」という行為は、そのモチーフを起点として当時の様々な社会や文化と繋がっていく回路を開く行為だと思っているので、やはり無関係とするのは難しいのです。

そして、これまではそういう難しさを共有しながら、お互いにプラモを楽しめていたのが、SNSなどでオープンアクセスの度合いが高まってしまったことで、さらに難しさが高まってしまいました。いろいろな考えをもった人たちが楽しんでいる趣味の世界で、場合によっては外の人たちとのコンタクトが生まれる状況で、いかに頭ごなしに否定するような言葉を投げかけず「尊重すれども、関与せず」のスタンスで臨めるのか、これも難しいテーマだと思います。

このような答えの出ない課題を内包し、一方でコミュニケーションの場のコントロールが難しくなっていることを薄々気づきながら進めていたこの趣味の難しい部分がこの戦争で一気に前景化したような気がします。結局のところ、自分で考え、自分で選びとっていくしかないという答えになっていない答えに行き着いてしまうのですが、今のところ選びとる余地のある世の中であることは尊く守りたいものだなと思っているところです。